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■自分にできること■〜leaf vs key リレー仮想戦記 ■自分にできること■

夢を、見ていた。 
寒い日の、夢を。 
あの日から、すでに4カ月。 
5月の日差しは、少しずつ暑さを増していた。 
エアコンのモードは、いつの間にかヒーターからドライに変わった。 
『挑戦をやめてしまえばどうなるか、リーフの現状を見れば分かるだろう』 
あの時の吉沢の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。 
「挑戦…か」 
麻枝は、力なくつぶやいた。 
ウイルス事件で駄目になったシナリオの書き直し。 
それが、ここのところの麻枝の仕事だった。 
だが、その作業は遅々として進んでいない。 
「何に挑めばいい…今は」 
麻枝の足元には、丸められた紙が無数に転がっていた。 
どうせならと、一から書き始めたシナリオ。 
だが、満足のいくものはできなかった。 
「何がやりたいんだ? 俺?」 
麻枝はつぶやくと、力任せにシャープペンシルを投げ出す。 
そして、モニターの前に座り、シーケンサーソフトを立ち上げる。 
シナリオに詰まると音楽。それはいつもの麻枝のパターンだ。 
「…こっちも駄目か」 
メロディーと呼べるようなものは、浮かんでこなかった。 
「チャーシューメン一丁!」 
気分転換に、訳の判らないことを言ってみたが、気分が晴れるわけでもない。 
「アホか…」 
麻枝は椅子に体を投げ出すと、目を閉じた。 
その時、ドアがノックされた。 
「誰ですか?」 
『久弥です』 
「…用は?」 
『弁当、持ってきました』 
「判った…ちょっと待ってくれ」 
今のままではあまりにも見苦しい。 
麻枝は、少しだけ部屋を片付けてから、ドアを開けた。

「すまんな、久弥。こんなことまでしてもらって」 
「いいんですよ。今、僕にできるのは、雑用ぐらいのもんですし」 
「…またコンビニ弁当か?」 
「はい。好きですから」 
「もっとちゃんとしたもの、食えよな」 
あまりの久弥らしさに、麻枝は苦笑した。 
「おいしいですよ」 
「まぁ…この場じゃ、悪くはないかもな」 
ローソンのトンカツ弁当に箸をつけながら、 
麻枝は誰に語るでもなくそう言った。 
「…苦労してますね」 
「判るか?」 
「麻枝さんは、すぐ顔に出ますから」 
「大丈夫…と言いたいとこなんだけどな」 
麻枝の表情が、少し硬くなる。 
「ちょっと、引っ掛かっててな」 
「?」 
「俺は守りに入ってるのかな?」 
「え?」 
久弥の表情に疑問の色が浮かぶ。 
「半年ほど前に、吉沢さんに言われてな。 
挑戦をやめてしまえば進歩はないって」 
「Kanonのことですか?」 
「ま、そういうことだな」 
しばらく黙っていた久弥が、おもむろに口を開く。 
「あれがあの時、自分にできる精一杯でしたから」 
「…」 
「僕にとって企画は初めてだったし、今でもあれに不満はありますし」 
「不満?」 
「僕は別に、周囲から夢想家とか、甘いとか言われてもいいんですよ。 
でも…本当に自分のやりたいことができたのか、というと…」 
「まだ完全じゃない、と」 
「多分それは、麻枝さんとはかなり違うんでしょうけれど」 
「なるほど…な」

「守ることが正しいとは思えないんですけれど」 
久弥は静かに話し始める。 
「だからって、無闇に挑戦すればいいってもんでも…ないと思います」 
「…」 
「麻枝さんには麻枝さんにしか、僕には僕にしか 
…できないことが、ありますから」 
「自分にしか、できないこと?」 
「なぜ麻枝さんは、RPGを作ろうと思ったんですか」 
少し間を置いて、麻枝は口を開いた。 
「RPGを作るということは、1つの世界を作ることなんだ。 
少なくとも、その世界においては、自分は創造主=神でいられる。 
そして、その自分が作った世界で、 
…人が生きる姿、人が成長する姿を描きたかった…から?」 
「え?」 
「成…長?」 
「どうしたんですか?」 
「…ゲームの中では、人は成長できないんだよな」 
「ま、まあ確かに」 
「自分の世界…自分の…」 
「麻枝…さん?」 
「悪い、久弥。しばらく一人にしてくれないか?」 
「?」 
「…お前も俺も同じだ。書く時は一人だ」 
「はい!」 
麻枝の、そして久弥に笑顔が浮かんだ。 
シャープペンシルの滑る音が聞こえ始めた。
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