
leaf、その巨大な斜陽の帝国の一室にて、椅子に掛けた一人の男が宙を睨んでいた。 口は半開き、その唇の先からは涎が溢れ、目は円く虚ろに魚類を思わす 不気味な眼光を放つ。その姿はまさに「狂人」以外の何物でも無い。 だが、かの男、彼こそがleafで高橋に匹敵する才を持つといわれる、 シナリオライター「原田宇陀児」その人であった。 宇陀児の手が持ちあがり、キーボードの上に置かれる。 そのまま宇陀児の指がキーをまるでピアノの演奏でもするかのような 流暢かつ滑らかな動きを見せ始める。 だが相変わらず、宇陀児の目は宙を泳いだままだ。 原田宇陀児…彼のトランス状態における自動筆記こそが、その 悪夢的、または芸術なる狂気とも評されるシナリオを産み出しているのだ。 宇陀児の指はかろやかに動き続ける。まるで永遠に続く、 メビウスラインのように。 だが突如その指が止まった。 「青紫が逃げたってよ」 「当然だな、あんな屑野郎」 外から聞こえた人声に宇陀児の身体が突如硬直する。 その腕が突然、空に伸ばされ、醜く引きつるように歪む。 片足がまるで棒にでもなったように硬直し、もう片方の足が 引き攣りを起こす。 その口は大きく開けられ、口内に見える赤い咽頭を震わす叫び声が漏れた。 「シェー!!」 部屋の外にいたスタッフが叫び声を聞き、慌てて入ってくる。 「ちっ、宇陀児さんがまた発作を起こしたぞ!」 「俺、高橋さんを呼んでくるよ!」 宇陀児は自らの中に心の病、精神分裂病と、 それに付随する病、緊張病、躁鬱病を抱えており、 ときおり発作を起こすことがあった。 取り急ぎ部屋に掛けつけた高橋は緊張病の発作を起こした宇陀児を 抱き起こすと、懐から取り出したアンプルを手際よく注射する。 虚ろだった宇陀児の目に僅かに光が灯る。 高橋は宇陀児に語りかける。 「大丈夫か?」 だがその言葉に対する返答は高橋の予想もだにしなかった言葉だった。 「…タカハシ…ミナツキ…ボクハウラギリモノヲユルサナイヨ…リイフハボクノ アカイアカイチトトモニアル…ククククク…アカイ…アカイ…アカイ…」 宇陀児は注射…強力な鎮痛剤であるノタリンの効果でまたすぐに気を失った。 高橋は青ざめた顔で呆然と立ち尽くしていた。 (馬鹿な…こいつが…こいつが俺達のleaf退社&独立計画」のことを知るはずが無い… 偶然だ、偶然に決まっている。狂人は時折、普通の人間では考えられないような 脅威的な勘の良さを見せるというではないか。だいたいこいつがここにいられるのも 俺が精神病院に幽閉されていたこいつの文才を見こんで拾ってやったからだ。 こいつが、宇陀児が俺を裏切る訳はない。ないとも…) だが高橋の理性の声とは裏腹に、本能が危険を告げていた… 宇陀児にこれ以上関わってはいけないと…次を読む
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