?:「カーネリア様じょ……」 特徴的な髪型をした、特徴的な男が、特徴的な語尾を付けて、彼女の名を呼んだ。 時刻は既に夕暮れ。所はすえた病室。浮かぶ影は、遠い目で空を見上げる、一人 の女性の姿をしていた。 ”彼”にはそれが、まるで少しだけ枯れた、一本のユリの花に見えた。 ?:「野口くん……」 ”彼女”は、長期入院患者の病的な目で、”彼”を見た。 彼の名は野口征恒、ダサいダ埼玉県のダサいバグメーカーの駄目男である。 彼の髪型は、一言で言ってしまえばスネオカット、もとい、あしたのジョーである。 彼は子供の頃、この作品に憧れ、力石の葬式に列席したほどの入れ込み様であった。 今も、その時の記憶が彼を縛り付けている。 ……だったらなんでマンガ家にならずに、エルフ→シーズと渡り歩いたのか、それ は言ってはいけない、禁断の謎である。 ちなみに、マンガ界では弓月光の正体も禁断の謎である。 間違っても、そのことを下田社長に訊いてはならないのである。 ?:「ふふっ、面白い話を聞かせてもらったわ、野口くん、そう……下界ではそん なことが起こってるの……」 えてして、入院生活というのは退屈なものである。 そこで、彼は、彼の会社にとってもはや最後のライフラインと化した「カーネリアン様」、 彼女のご機嫌を伺うべくこの病院に日参し、日々その退屈を慰めてるというわけだ。 カーネリアン、彼女の言う「面白い話」。 それは今や公然の秘密と化した、Keyとリーフの確執の事である。 主に関東に活躍の場を持っている彼女にとっては、それは所詮どうでもいい話に過ぎない。 カーネリアン:「思い出すわね、私が来る前の出来事、だったかしら。……でもアアルの 事は、むしろあなた達の為だったと思いますよ」 クスリ、と彼女が笑う。 この業界で、ソフ倫様にたてついてやってくのは大変だ。 それは、首都圏でしかソフトを売れないと言う意味に等しいのだから。 野口征恒:「ウチは、所詮、バグバグなメーカーですから」 野愚痴……もとい、野口ジョー……これも違う気がするが、野口ジョーは、自虐的に笑った。 痛い程その笑みの意味がわかる彼女には、その笑みがまるで泣いてるように見えた。 その気はないのに、つい、慰めてしまう。 カーネリアン:「でもほら、駄目男ってヤツ?、私は嫌いじゃないの。それで随分と痛い目を みたけどね、クスッ」 「ハッ」として顔を見上げる野口ジョー。その顔には甘えるような駄目男の媚びがこもってる。 カーネリアン:「ほら、DESIREのアルくんも駄目男だったけど、モテモテだたもの。こんなお ばさんじゃ無くても、そういうのに弱い若い女の子もいるんだから、野口く んも諦めちゃ駄目よ?」 カーネリアンはあくまでも優しかった。 野口ジョー:(でもDESIRE褒められてもあんまり嬉しくないっス、ふぁっきんハカセだジョ) ……駄目男が心の中でぼやくのはご愛嬌。 この時、彼はまさか、目の前のこの女性が当のそのハカセと手を組むなんて、考えも及ばないのだ。 ちなみに、それが由縁で彼はリーフの手先と化すのだが、それはまだまだ先の話だ。 その時、どこから紛れ込んだのか、一匹の子猫が彼女のベットに脇に歩み寄った。 カーネリアン:「あら可愛い」 著者近影に不気味な踊り猫を使うだけあって、彼女はネコ好きだった。 早速、野口ジョーに命じ……頼んで膝に上げてもらう。 白い子猫は、白いシーツの上で、甘えるようにじゃれた。 カーネリアン:「下界の人達は、まだあんな諍いを続けてるのね……いっそこの子猫のように、何も かも忘れて遊んでしまえば良いのに」 野口ジョー:「達観しているんダジョ……」 カーネリアン:「私も、それだけの地獄を見てきたってことよ、野口くん」 そういって陽を背に笑う彼女は、確かに背負ってきた歴史を感じさせる、”凄み”を持っていた。 その時、なんの前触れも無しに可愛らしい鳴き声が響いた。 「みゃお〜」 甘えるように甘く、無垢なほど無邪気に、その声は、まるで年若いお姫様の媚態ある嬌声のようだった。 だが、その瞬間、カーネリアンは落雷が受けたかのように体を震わせたのだ。 弾みで、彼女の膝から猫が滑り落ちる。 カーネリアン:「ふふっ、野口くん、私、Keyの人達の気持ちがちょっとだけわかるの」 野口ジョー:「ジョ?……」 カーネリアン:「恐いよね……ファンって」 野口ジョー:「ジョー……」 (羨ましいっス、ダジョ) しかし駄目男にはその気持ちは伝わらなかったのだった。次を読む
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