「へぇ…よくもそんな馬鹿なことを考えたわね」 大阪・日本橋の某ビル。 社長室のデスクに座った男性…もとい女性は、 気だるそうな口調で受話器を握っていた。 「デジフェスの件はウチにとっても迷惑だったし、 もともとあそこにはいい印象持ってなかったけど …あんたたちが裏で糸を引いていたとはね。 よくもまぁ、自慢げにそんなこと話せるわね。最低ね」 デスクの主は林真須美…もとい神田川俊郎…でもなく、 スタジオ・エゴの社長兼原画、山本和枝である。 「下川。あんたみたいな小心者が、 ビッグになろうなんて考えるのがそもそも間違っているのよ。 あんたにはあのタコ部屋が丁度よかったのよ。あたしと違ってね」 『まあそう言うな。かつてTGLの臭い飯を食っていた者同士じゃないか』 心なしか、電話の向こうの声のトーンが落ちたようだ。 山本はそこを逃さない。 「あんたみたいに性根まで腐っちゃいないわよ。 揚げ句の果てに、keyせん滅に協力してほしい? 私を見くびるんじゃないわよ」 『まぁまぁ、ここは一つ、デバッガーを貸すということで…』 「ウチも人の事言えた義理じゃないけど、あんたのところのなら願い下げね。 毎回毎回、何度修正パッチ出してんのよ」 『冗談は顔だけにしたらどうだ、え、山本?』 「そうねぇ…それじゃ一つだけ提案があるわ」 『何なりと』 「ウチはシナリオがちょ〜っと弱いから… 高橋くれるってんなら考えなくもないわよ」 『人を馬鹿にするのもたいがいに…』 「あ、原田でも別にいいわ。でも青紫だったらいらないから」 『ふざけるな!』 大きな音を立てて電話は切れた。 「相変わらず馬鹿だこと、あのボンボンは」 一息つき、山本はもう一度電話に手を伸ばした。 呼び出し音2回の後、電話はつながった。 『はい、こちらサフィール…』 「社長いる? 山本っていえば判るから」 『少々お待ちください』 きっかり10秒後、彼…もとい彼女が電話に出た。 『はい、代わりました』 「あたしよ。久しぶりね、あきら」 『これはどうも、お久しぶりです』 声の主は「あきら」。サフィール=ちぇりーそふとの代表だ。 山本と同じ、TGLスピンアウト組でもある。 「相変わらずつまんないゲーム作ってるわね」 『そちらこそ』 「ま、どっちも儲けてるからいいんだけどね」 『で、今日は何の用ですか』 「例の馬鹿ボンから連絡があってね。協力してほしいって」 『例の…て、下川?』 「そ。高橋くれって言ったら怒って電話切っちゃった。 これだから冗談の通じない馬鹿は。ま、からかうと面白いけどね」 『馬鹿につける薬はないようね』 2人は男らしく…もとい豪快に笑い飛ばした。 「放っておいてもいいんだけどさ、 あたしを怒らせたらどうなるかを知っておいてもらうのもいいかな、と思ってね」 『で、今日の用件と』 「そ。判るわね〜、あ〜きらちゃんは」 『それで、私は何をすれば?』 「簡単よ。…1人ほど、野心を植え付けてほしい奴がいるのよ」 『…どういうことです?』 「池袋はみつみのお馬鹿ちゃんさまがかき乱してるからね〜。 みんなストレスたまってんのよ。判る?」 『話はよく聞きますね』 「で、一人ほど、たきつけてほしいのよ。 いつまであの女の下にいるつもりなのか、とね」 『…誰にですか』 「甘露よ」 山本の表情が大きく歪んだ。 「うまくいけば、池袋は瓦解ね」次を読む
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