「どうした? 落ち着きがないぞ」 高橋に声をかけられて、初めて下川は自分が部屋の中をせわしなく歩き回っていることに気がついた。 「上に立つ者はもっと、構えていればいい。それでは下が不安になるぞ」 「だが… あれは無茶だ。成功するはずがない」 その返答を聞いて高橋の顔が歪む。 主語が省略されていたが、何を云わんか理解したのだ。 「外様風情が」 吐き捨てるように呟く。 彼は全く持って新参の連中を信用していなかったのだ。 そして、ただ付いてきただけの烏合の衆(ファン)も。 だが感情をそれ以上露にしようとせず、下川の耳にそっと吹き込む。 「大丈夫だ。自信を持て。俺たちは負けない」 「本当か!?」 「ああ、俺が今まで負けたことがあったか?」 後年、述懐される所、『奴の智謀は尽きぬ泉のようだな』と評された高橋の言葉である。下川がいつもの傲慢な表情を取り戻すのに時間はかからなかった。 「それでこそ『下川』だ。取材が入っているのだろう。時間だ」 「ああ、そうだな…」 退出しようとした下川は扉に手をかけ、振り向きざまに言った。 「高橋、リーフはカイゼルになれると思うか?」 「俺達以外の誰にそれが適えられようか」 それは95年、阪神大震災で壊滅したリーフ本社でのやりとりの再現だった。 あのときはただの夢物語だと思っていた。 だが、それはもう手の届くところに来ている。 燃え上がる野望は身を焦がさんばかりに。 あふれる自信は自分をも流しかねない勢いで。 その日の下川のインタビューは世間に波紋を投げかけることになる次を読む
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