「それは本当なのですか?」 折戸倒れる、の知らせを、中上は退社した石川真也からの電話で知った。 「昔からの悪い癖だ。真面目すぎるんだ。雫の時からあいつはそうだった」 石川の声は明らかに不機嫌だ。 「…判りました。心に留めておきます」 「まぁ、会社じゃそこまでしか話せないだろうからな。見舞いには行くのか?」 「…考えて…おきます」 「声が疲れているぞ。自分の心には素直になれ。でないと…」 「でないと?」 「あそこまで強権的な削除ができるほど強いわけでもないだろ? 無理をするな。…次はお前の番になるぞ」 言い終わると、石川は電話を切った。 大阪・北区の病室には、面会謝絶の札が掛かっていた。 「…一体どういうことだ」 予想以上に病状が悪いのか? そんな不吉な予感が中上の頭をよぎった。 通り掛かった医師に、中上は聞く。 折戸の病状はどうなのか、と。 「身内の方ですか?」 「弟です」 とっさにそんな嘘が口を突いて出た。 「そうですか…ではこちらに」 医師は中上を個室に案内した。 「…命に別状はありません。単なる過労です。ただ…」 「ただ?」 「しばらく無理はできません。…聞けばお兄さんはソフトハウスにお勤めだとか」 「はい」 「ああいう仕事は時間が不規則ですしねぇ。 いっそのこと、仕事を変えてしまってはいかがでしょうか?」 医師の言葉には、明らかに侮蔑の意が込められていた。 中上は、込み上げる怒りを抑えながら言った。 「…それは、兄の本望ではないでしょう」 同時に自分の本望でもない。そう言いたかった。 「まぁ、しばらくは無理はできませんね。呼吸器系統に後遺症が残りそうですから」 「…そうですか」 持っていた小さな包みに目を落とし、中上は自分の無力さを呪った。 「あの」 「なんですか?」 「これを…兄に」 円筒形の小さな包み。紺色の風呂敷に包まれている。 「お見舞いの品ですか。一体これは…」 「開けないでください!」 思わず中上は声を張り上げた。 「君!」 「…そのままで…兄に…手渡して…ください」 「…ここは病院だよ。判っているのかね」 「はい」 「…判りました。お兄さんにはちゃんと渡しておきます」 「…ありがとうございます」 包みの中身は、500枚パックのCD-R、株式会社アクアプラス名義の領収書。 そして、たった一枚の手紙。 『証拠はここにある。 俺にはこれしかできない。 すまない。 中上』次を読む
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