大阪市内、某所。 「……いかんな」 デスクに腰掛けた男が、一人呟く。 「どうしました、部長?」 答えたのは、隣で作業をしていた部下。 「いや、キミも知っているだろうが、デジフェスの件」 「Keyさんのコトですか」 「そう。会場外だったからよかったものの、中だったら我々にも被害が…… と、それはともかく、やっぱり黒幕がいたようでね」 「リーフさん、ですね」 「そうゆうこと。『Kanon』の評価が高かったから、焦っているんだろうね。僕としては3−0で『こみパ』だけどね」 「……メガネっ娘の数でですか?」 男は、「ごほん」と咳払いして、話題をそらすように続ける。 「しかし、だ。これだけ派手なコトされると、我々としても黙ってみているわけには行かないねえ。関西の覇権は、リーフさんでも、Keyさんでもなく、我々が握るべきだからね」 「ええ」 「そこで、だ。すまないが、池袋に電話をつなげてくれないかな」 所変わって、伊丹・リーフ本社ビル。 殲滅作戦が快調に進んでいるからか、開発室には穏やかな空気が流れている。 「順調だな」 下川が口を開く。 「ああ。このまま行けば、あの目の上のたんこぶは消滅。我々の帝国は安泰だな」 そう語る高橋の表情は明るい。 「うむ。だが、こう言うときこそ気を引き締めねばならんかもな」 どたどたどた。 開発室に一人のスタッフが駆け込んで来る。 「どうした。そんなに慌てて」 「た、大変です。と、東京から、『彼女』がこちらに向かっていると、連絡が……」 開発室に、戦慄が走る。 JR新大阪駅、新幹線ホーム。 下川をはじめ、リーフ主要スタッフがそこに集結していた。 新幹線のドアが開く。 グリーン車の中から出てきたのは、二人の男を従えた、女性だった。 女性は居並ぶリーフスタッフを睥睨し、口を開く。 「やっほ〜♪ したぼくのみんな、でむかえごくろ〜☆ そ〜れにしても、やっぱこれくらいいないとね。『クイーン』としては☆」 賢明なる読者諸氏ならお分かりであろうが、彼女はみつみ美里。 同人界の『クイーン』にして、リーフ東京開発室の原画家である。 彼女が引きつれているのは、同じくリーフ東京スタッフの甘露樹、鷲見努。 再び、リーフ本社ビル。 専用の社用車を降りた一行は、専務執務室に迎えられた。 「ふふ〜ん。ちょーすばらしいアイデア思いついたから、やってもらおうと思って♪ このみつみちゃんさま自ら来てあげたんだから、ありがたく思いなさいよ」 そう言ってみつみが差し出したのは、 『こみっくパーティー きかく書』 と書かれた一通のレポートだった。 「え、あのー、こみっくパーティーはもう既に発売されましたが……」 「んーなことは分かってるわよ。まあ、ちょっと読んでみて☆」 下川がページをめくると、そこには 『しゅし:同人誌そくばい会「こみっくパーティー」をほんとーに開さいする→したぼくたち大よろこび』 と大書されていた。 その後には、即売会の詳細として「ゲームで出てきたサークルをはじめ、ごーかゲスト♪」などと景気のよい言葉が並ぶ。 鳩が豆鉄砲食らったような顔をして固まる下川。 「どお?いいアイデアでしょ?」 「み、みつみ先生、これは……」 「いいでしょ?」 下川の頭に浮かんだのは、先日のデジフェス。 ここに書かれている規模の即売会ともなれば、相当の混乱が予想される。 それだけでも二の足を踏むのに加えて、この機をついてKeyが復讐作戦を打ってこないとも限らない。他の大手だって黙っては居るまい。 「ちょっと、無理では……」 絞り出すように声を紡ぐ。 「やだ」 にべもなく言いきる、みつみ。 「しかし……」 「やだやだやだやだ! やってくんなきゃやだ!」 「か、勘弁してください〜。こんな企画通したら、どんな危険なことになるか……」 「……じゃ、いい」 「分かっていただけましたか」 ほっと胸をなでおろす下川。 「……高田馬場に、帰る」 「待ってくださいみつみ様!! それだけは、どうかご勘弁を…!」 冗談じゃない。 彼女が抜けたら、原画もグラフィッカーも全部抜けるだろう。そうなれば、東京開発室が再建できないのは明白である。 それに、せっかく引き離したF&Cに、塩を送ってやるわけにもいかない。 「分かりました! 即売会でもなんでも、開きます!」 「よしよし。そーこなくっちゃ。じゃ、後のこまかいことはよろしく〜♪ 甘露クン、CHARMクン!」 「はい」 後で控えていた男が答える。 「せっかく大阪来たんだし、プリンパフェ食べにいくわよ〜♪ つれてってあげるから感謝しなさい」 そういうと、みつみは部屋を出ていった。 残された二人−甘露と鷲見は苦笑いして顔を見合わせる。 「甘露君。先行っといてくれないか」 「ああ」 甘露が退出すると、鷲見は下川に近づき、一言告げた。 「南森町に、気をつけて下さい」次を読む
【TOP】