大阪・天満の一角。 似合わないサングラスを掛けた折戸は、いら立ち加減で人を待っていた。 やがて、向こうから足音が聞こえる。 「…人を待たせるとはどういう了見だ。この場でその黄金の指を折ってもいいのだぞ」 不機嫌そうに折戸はつぶやく。 「私にも立場がある。この場を陛下に見られる訳にはいかんのでな」 足音の主は、ひょうひょうとした表情で答える。 中上和英。下川の右腕と言われる男だ。 かつては折戸の戦友でもあり、敵味方に別れた現在でも、その友情は変わらない。 「同じWeb管理者として、俺の苦労も判るだろう」 「何が言いたいのだ?」 「なぜ荒らす。信者を使ってまで」 中上の表情が一瞬、凍る。 「…何が言いたい」 「CD-Rの件だ。だれがやったか、おおよその見当はつく。フン、あの男らしい汚いやり方だ」 「お前は疲れている。人の意見を聞きすぎなのだ。無視する勇気も…」 「中上。お前のように、独善的に何でも削除するような管理は俺にはできない。 あの男に…下川にしいたげられた俺には、無視されることの苦しみが判るから…」 「折戸!」 中上が声を荒らげる。この男にしては珍しいことだ。 「…俺は陛下には逆らえん。お前のような勇気がないから」 絞り出すように、中上はそう言った。うっすらと、目に涙が浮かんでいた。 「すまない、言い過ぎたようだ」 バツが悪そうに折戸は沈黙する。 音のない時間が数刻、流れた。 「話したくなければ話さなくてもいいが、帝国の実状はどうなのだ」 口を開いたのは折戸の方だった。 「話す必要はない…と言いたいところだが」 「だが?」 意外な反応に折戸は驚く。帝国の重臣が話すとは思っていなかったからだ。 「正直苦しいのだ。ドザ・石川大将軍が帝国を離れたからだ」 「…あの歴戦の男が、帝国を見限った、か…」 「帝国は東部戦線を広げすぎたのだ。何のちゅうちょもなく西の名将を投入した。 もちろん、俺もその例外ではない」 「…」 「鳥の、生波夢、上田、閂…。勇将たちが次々と帝国を見限った。 水無月、河田、原田も、内心はどうだか…」 「…予想以上だな」 「帝国の惨状は予想以上だ。なのに、私には飛び出す勇気がない。それだけのことだ」 「中上…」 「私はお前の勇気がうらやましい。憎いと思ったことさえある。いや、今でも憎いのかもしれない」 「中上、もうそれ以上言うな。お前の気持ちは判っている」 「…すべては、陛下の独善に問題があるのだ。それを止められない私にも」 「それ以上自分を責めるな、中上! お前は…よくやっている」 「…すまない、折戸」 2人の目を、ゆっくりと、涙が伝った。 「最後に一つだけ言っておく」 「何だ、中上」 「重臣たちの中で、陛下に心酔しているのは、青紫ただ一人だ。 あの高橋さえも…内心は判ったもんじゃない」 「…どういうことだ?」 「伊丹から新大阪に遷都を強行するなど、陛下の独善には多くの重臣が不満を持っている。 場合によっては…高橋すらも、お前たちの側につく可能性があるということだ」 「…本当なのか、あの高橋が」 「あくまでうわさの域を出ないが、な。可能性の問題だ」 「あの男は知っているのか」 「そのせいで最近、高橋と口論が絶えない。陛下も…おろかなことを」 「中上…」 「…まあいい。少なくとも私は、最後の一兵になっても帝国に残る。 今の陛下には問題も多いが、拾ってくれた恩を忘れたわけではない」 「お前も…相変わらず律儀なもんだな」 「…次に会うときは、戦場かもしれんな、折戸」 「ああ、ただ…」 「ただ?」 「…中上。お前と戦うのは嫌だな」 後は無言のまま、2人は別れた次を読む
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