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■亀裂編■〜leaf vs key リレー仮想戦記 ■亀裂編■

「まいったな……」 
 目の前の朝刊を眺めながら、麻枝は呟いた。 
 久弥と折戸も、深くため息をつく。 
「血の宴」事件を詳細に報じる記事が、全国紙の一面を飾ってしまったのだ。 
 朝刊をたたむと、麻枝は久弥に向き直った。 
「実際のところはどうだったんだ?」 
 デジフェス当日、麻枝は自宅でロリアニメを鑑賞しており、会場の様子はよく知らないでいた。 
「それはもう凄かったよ」 
 久弥は、大げさな手振りを交えて説明を始めた。 
「マキシシングルは十分くらいで売り切れたんだけど、 
 買えなかった連中が僕らを取り囲んでさ、目を充血させながら言うんだよ。 
『keyさんは奇跡を起こすべきです』って。こりゃヤバイって思ったんで、 
 仕方なく再販を検討するって約束しちゃったんだ」 
 麻枝は久弥の苦労をしのび、感想を素直に漏らす。 
「大変だな、オタク相手の商売というのは」 
 違いない、と折戸。 
 三人が一斉に失笑したところで、いたるが部屋に入ってきた。 
「デジフェスの件なんだけど、調べてみたらとんでもないことが分かったわ」 
 いたるは余ったパイプ椅子に腰を下ろすと、独自の情報網による調査の結果を報告した。 
「まだ裏はとれてないから確かなことは言えないんだけど、 
 CDの買占めにリーフが係わっていたらしいの」 
「リーフが?」 
 麻枝は目を細め、語気を強めた。 

「デジフェスの会場で青紫を見たっていう証言があったから、 
 その筋から調べてみたら、高橋と下川がどうやら糸を引いていたみたいなの」 
「下川め……」 
 旧友の顔を脳裏に描き、折戸が軽く舌打ちした。 
 麻枝は胸の前で腕を組み、他の三人を見回す。 
「もしそれが事実なら、高橋たちには相応の報いを与えてやる必要があるな……」 
 折戸がうなずいたが、久弥はかぶりを振った。 
「だけどこれは、リーフが焦ってる証拠だよ。許せとは言わないけど、 
 リベンジするなら新作でしようよ。完膚なきまでに叩きのめして、 
 あいつらに引導を渡してやろう。それが大人ってものさ」 
「そうよ、わたし達は新作に力を注ぎましょう」 
 麻枝と折戸は互いを見やり、苦笑した。 
「お子さま相手にむきになるなんて、俺たちも大人気ないな」 
 keyの面々が憎たらしいほど余裕の見せるのは、リーフの没落だけが原因ではない。 
 リーフには「アキレス腱」があった。 
 高橋たちが再び暴挙に出ることがあれば、その時は「アキレス腱」を切ってやればいい。 
 安易な復讐は無用だ。 
 それが、彼らの共通認識である。 
 そしてその「アキレス腱」は、二ヵ月後に切られることになる……。 

 遅れて出社したみきぽんとしのり〜を加えた六人で、新作の打ち合わせが始まった。 
 最初に決めるのは、企画担当を誰にするかである。 
 麻枝と久弥を交互に当てるならば、次回作は麻枝なのだが、 
「異議あり」 
 久弥が不服を申し立てた。 
「タクティクスにいたとき、麻枝はMOONとONEの企画を続けて担当したんだから、 
 新作の担当は僕じゃなきゃ不公平だよ。交互にするのは、次々作からでいいじゃないか」 
 自分で決まりだ信じていた麻枝は、誰も気付かないほど小さく、口元を歪めた。 
 苛立ちを悟られないよう、心を落ち着けながら、麻枝は反論する。 
「それはお前がまだ半人前だったからだ。不公平なんかじゃない」 
 納得のいかない久弥が反論すると、やはり譲れない麻枝が応酬する。 
 二人のやり取りを他人事のように眺めながら、いたると折戸は打算をめぐらせていた。 
 ――私のキャラデザを生かすには、久弥が企画を担当したほうが有利だわ。 
 久弥は萌え重視だから、彼がメインシナリオを書いたほうが、 
 わたしの可愛らしいキャラデザが引き立つわ。 
 ――俺の力を誇示するには、麻枝が企画を担当したほうが有利だ。 
 なぜなら、久弥が企画に回れば、麻枝が音楽に手を出す余裕が出来る。 
 そうなれば、俺の威光が薄れてしまう。 
 いたるは久弥を、折戸は麻枝を支持した。 
 どちらが企画を担当しても大差のないみきぽんとしのり〜は、 
 恨みをかうことを恐れ、あいまいな態度に終始する。 

 議論は袋小路に入った。 
 停滞していた暗雲を振り払ったのは、休憩中に会議室を訪れた社長の一言である。 
 彼は、企画担当が決まらないと聞き、子供なみのメンタリティを持つkeyのスタッフに呆れた。 
 幼稚な連中を、社長は快く思わないが、KANONの成功で味を占めた彼に、 
 罰を下す勇気などあるはずがなかった。 
 社長は言う。 
「それなら、開発ラインを二本にしないか? 
 それで、次回作は麻枝くん、次々作は久弥くん、これならいいだろう」 
 麻枝と久弥は視線を交わし、互いの瞳に、野望をたたえた炎が揺らめくのを見た。 
 ――キャラ萌えしか脳のないお前に、本物のシナリオがどういうものなのか、教えてやるぜ。 
 そしてその暁には、俺こそがリーフを倒した者として崇められるのだ! 
 ――不可解なシナリオでユーザーを煙に巻くお前に、この僕が負けるものか。 
 キャラ萌えの真髄を見せてやる。マルチを超える、新たなキャラ萌えをな! 
 反目する二人は、打倒リーフを誓い、新たな企画に着手するのであった。  
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