■謀略編■〜leaf vs key リレー仮想戦記 ■謀略編■

 季節は移ろい、秋。 
 降り注ぐ陽射しは柔らかく、冷ややかな風が軽やかに吹きぬける。 
 青空を渡る白い雲を眺めながら、青紫は悩んでいた。 
 鍵っ子を利用したネガティブキャンペーンが、実行の段階でつまづいてしまったのだ。 
 鍵っ子の言動がいかに奇怪なものであっても、 
 鍵掲示板の多重レスや内輪化だけでは、人々の失笑を誘うに過ぎない。 
 keyに深い傷を負わせるには、誰もが驚愕する事件が起こる必要がある。 
 しかし、いくら強く念じようとも、鍵っ子を電波で支配できるわけではない。 
 KANONが発売されて以来、時は、平穏を友としながら緩慢に流れ、現在に至る。 
「青紫」 
 空を仰いでいた視線を部屋の入り口に向けると、ドアをくぐったばかりの高橋の姿があった。 
「どうした、辛気なツラして」 
 青紫に歩み寄ると、高橋は側のパイプ椅子に腰を降ろす。 
 高橋は、目を伏せる部下の苦悩を察した。 
「ネガティブキャンペーン、うまくいってないようだな」 
「……すみません」 
 頭を小さく縦に振り、青紫は謝辞を述べた。 
 しかし高橋は、明るい調子で言ってのける。 
「気にするな。俺も、無理難題を押し付けたんじゃないかって、悩んでたところだ」 
 計画の遅れを非難されるのではないかと恐れていた青紫は、 
 安堵から深く息を吐き、肩の力を抜いた。 
「そこでだ、青紫。今日はお前に面白いアイディアを持ってきた」 
 会話の意外な展開に、青紫は首をかしげた。 
「来月、大阪でデジフェスが開かれるのは知っているな」 
 デジフェス――正式名称をデジタルフェスティバルというそれは、 
 キャラクターグッズの展示と販売が行われる催しである。 
「知ってますが、それがなにか?」 
「デジフェスには、keyも参加する。CDとテレカを売るらしい。 
 それを目当てに鍵っ子が集まるだろう。これを利用するんだ」 

 高橋は、ゆっくりと計画の全容を語り始めた。 
 説明が核心に近づくにつれ、青紫の顔色が青ざめてゆく。 
「……本気ですか?」 
「当然だ。準備もすでに整えてある。あとはお前が現地に赴き、実行部隊の指揮をとるだけだ」 
「しかし……」 
 謀略と計略に満ちた構想に、青紫はためらいと恐怖を覚えた。 
「卑劣な手段かもしれないが、これが成功すればkeyのイメージは確実に暴落する。 
 リーフの栄光のために一肌脱いでくれ、青紫」 
 罪の意識と打算が思考回路を駆け巡る。 
 ハルマゲドンにも似た天使と悪魔の争いが、言葉では形容しがたい感情を沸き起こす。 
 血管を満たす血液が沸騰し、全身が火照る。 
 心肺が締め付けられ、動悸が激しくなってゆく。 
 薄れゆく意識を現実に引き戻したのは、部屋の出入り口のドアが開閉する音だった。 
「どうした、高橋」 
 静寂を破ったのは、専務の下川であった。 
 高橋の練った計画は、すでに下川の知るところであり、 
 雑務を終えたところで、交渉の様子が気になり、こうして現れたというわけだ。 
 下川は、青紫が渋っていることを聞かされ、自ら説得に乗り出した。 
「やってくれるなら、昇進を約束しよう。新作のシナリオも書かせてやる」 
 その言葉は、安い倫理観を吹き飛ばすのに十二分だった。 
「……分かりました、やります」 
 青紫は、正義よりも下川の庇護を選んだ。 
「やってくれるか、さすが俺が見込んだだけのことはある」 
 高橋は青紫の手を取り、健闘を祈って激励する。 
「頑張れよ、リーフの未来はお前の手にかかってるんだ」 
 青紫は高橋と綿密な打ち合わせを重ね、 
 運命の日の前日、「実行部隊」の待つデジフェスの会場へ向かった。 
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